「チェリスト、青木十良」に感銘

<p>96歳の現役チェリスト、青木十良さんのこれまでの人生を描いた「チェリスト、青木十良」という本を読みました。</p> <p>青木さんは10年ほど前からバッハの無伴奏チェロ組曲の録音に取り組み、これまでに「6番」「5番」「4番」の順でCDをリリースし、いずれも評判になりました。</p> <p>私は昨年発売された「4番」を聴きました。最近流行の軽く弾き飛ばすような演奏とは対照的に、ゆっくりとした足取りで一音一音を噛み締めるように、弾き進めていきます。青木さんのチェロ人生もこの演奏と同様に、一歩一歩着実に進めていき、現在の境地に達したのだと思いました。</p> <p>青木さんは名古屋の裕福な貿易商の家で10番目の子として生まれ、ラジオや音響に興味を持って成長、15歳でチェロを習います。諸事情から中学を中退してプロの道を歩み始め、山田耕筰や近衛秀麿らの知遇を得ながらオーケストラや弦楽四重奏団で活躍していきます。ソロ活動は昭和31年から。最初の頃のお弟子さんに鶴勝さんがいらっしゃいます。また長いこと天皇陛下にも教えています。</p> <p>最後に、この本を読んで、いくつか印象に残った語録を挙げます。</p> <p>・「人生は道草。人のことは気にせず、今いちばんやりたいことをやる」</p> <p>・「人生、50、60は勉強、70で花が開く」</p> <p>・「90歳になって、バッハがほぐれてきた」</p> <p>・「音楽というのは、結構難しい仕事」</p> <p>・「テクニックがあって音楽性が出るものではない。音楽が要求するからテクニックが高まるのだ」</p> <p>・「音楽性を身につけるには、その人の人間の心を極めることだ。自分の理想の音、自分の目指す音楽を、体の中に作れるようにならないと」</p> <p>&nbsp;</p>

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「20世紀の十大ピアニスト」(中川右介著)という本を読みました。ラフマニノフ、コルトー、シュナーベル、バックハウス、ルービンシュタイン、アラウ、ホロヴィッツ、ショスタコーヴィチ、リヒテル、グールドという10人の生涯を描いています。
いきなりクレームをつけるようですが、このピアニストの人選に疑問を持つ人は少なくないのではないでしょうか。ショスタコーヴィチがピアノの名手だったことは知られていますが、ピアニストとしての実績や影響力から判断すればゼルキンかケンプを入れるべきでしょう。選考基準に「人生がドラマチックである」(筆者)ことを優先した結果ですが、それがピアノの演奏能力に結びつくとは思えないし、もし話の面白さをあくまで追求したいなら、タイトルはせめて「20世紀の名ピアニストたち」とすべきでしょう。
それはともかく、この本は名ピアニストたちの評伝としては非常に読み応えがあります。なかでもラフマニノフ、ホロヴィッツ、ルービンシュタインの3人については、それぞれの生涯が波乱に満ちているうえに、様々な局面で互いに影響しあい、思いがけないストーリーが展開していくさまを克明に描き出します。
親子ほど年代の離れたラフマニノフとホロヴィッツは終生いい関係でしたが、中間世代のルービンシュタインとホロヴィッツは微妙な関係でした。初めは兄弟のように慕い合う関係でしたが、ホロヴィッツがルービンシュタイン夫妻との昼食の約束をすっぽかしたことがきっかけで、一気に絶好状態になり、それが20年続きます。結局、「ホロヴィッツが文書で謝るまでは許さない」という信念を貫いたのですから、一見好人物のルービンシュタインも相当な硬骨漢といえます。
私が感銘を受けたのは、ホロヴィッツと別れた後に、ルービンシュタインがそれまでの練習嫌いを返上して練習に打ち込むようになったというエピソードです。もともと享楽的で天才肌だったのが、ホロヴィッツへの対抗心から音楽に対する態度を百八十度転換し、それが演奏にもいい方向に影響し始めたのです。それは40代になってからのことです。
ルービンシュタインが80代になってもなお矍鑠として演奏活動を展開していたのを覚えていますが、中年になってからの精進がその要因の一つであったことは確かでしょう。ホロヴィッツとの確執も、結果的には怪我の功名だったと言えるかもしれません。
もう一つ印象に残ったのは、ホロヴィッツの「ピアニストは世界市民である。ショパンを弾けば善良なポーランド人に、チャイコフスキーを弾けば善良なロシア人に、ドビュッシーを弾けば善良なフランス人に、ベートーヴェンを弾けば善良なドイツ人に、なれる」という言葉です。これはピアノに限らず、どんな楽器にも、もちろんオーケストラにも当てはまるでしょう。
最後に、筆者は大ピアニストの三大条件として、①父親が若くして亡くなるか破産②強い意志の母親がいて息子を鍛えぬく③姉がいてピアノを習い、かつあまり上手ではない、を挙げています。特に③はなるほど、と思わせます。